【第39回】2026年3月

「スポーツの神」と同名、そしてすみだ有数の梅名所だったスポットとは?

「白ひげ神社」は、墨田区内に実は3社ある。そんなことをこの連載【第15回】【第16回】でご案内しました。それでは、「香取神社」はどうなのでしょうか。

まずは、区外の「香取神社」から

伊勢神宮、鹿島神宮とともに「日本三大神宮」と称される香取神宮(千葉県香取市)。全国に約400あるといわれる「香取神社」の総本社です。すみだのすぐ近くにある亀戸「香取神社」(江東区)に、まず立ち寄りましょう。

▲JR・亀戸駅から徒歩10分くらい、「明治通り」沿いにあります。平将門の乱の追討軍が参拝して乱を平定できた故事から、武道そしてスポーツの関係者などが勝利祈願で篤く崇敬。上の写真右側のノボリにも「スポーツの神」の字が見えます。

境内には、亀戸の地名由来といわれる「亀が井(戸)」が復元され、また名物の野菜「亀戸大根」の碑が建てられたりと、地元に寄り添った神社であることが実感できました。

こちらからさほど遠くない墨田区内にも、「香取神社」があります。亀戸の〝スポーツ〟に対して、すみだのほうの特徴は〝梅〟です。そちらを訪ねる前に、かつての梅名所を寄り道します。

次も、区外のスポットですが・・・

やって来たのは、北十間川の南側。こちらも江東区内です。

▲住宅街の一角、小さなポケットパークの中に「臥龍梅跡」の碑が。写真では椿の花が大勢力ですが、その上部に白梅と紅梅の姿も見えます(撮影時期1月下旬)。

上の写真左側の説明板を見ると、この地の歴史が分かります。

▲墨東(隅田川の東側エリア)は、江戸の人々の行楽地。四季折々の花も愛でられ、春を待ち焦がれる梅見も大人気でした。かつての広大な姿や名物「臥龍梅」は、浮世絵や古写真などから偲ぶことができます。

やはり墨東の梅名所の1つが「向島百花園」。先に開設された亀戸の「梅屋敷」に対して、「新梅屋敷」とも呼ばれました。当初は梅の木をたくさん植えていて、そもそも「百花」の名は、「梅は百花に魁(さきが)けて咲く」(大名家子弟で画家の酒井抱一の言葉)にちなんでいるのです。

すみだに入って、ひと休み・・

北十間川を北側に越えると墨田区です。すみだの「香取神社」に行く前に、ひと休みしていきましょう。

▲【第28回】で向島の「かめぱんカフェ」を訪れました。すみだで親しまれる老舗のパン屋・亀屋「かめぱん」は向島店もありますが、こちら立花(本)店が発祥です。店内で、次の品々をチョイスしました。

▲左側から「石窯ピザ」「正義の味方あんぱん」「缶入りコーヒー」(3点合計659円)。あんぱんは、例のキャラクターがモチーフになっているよう。(悪党にノックアウトされたのか)目が××になっているバージョンも販売されています。上の写真のテラス席でいただきました。

かつての「小村井梅園」を偲ばせるスポットへ

「かめぱん」が面する「東あずま本通り」を西側にしばらく進むと、小村井「香取神社」に到着します。

▲鳥居の両側、フェンスで囲まれたエリアに梅の木がたくさん植えられています。その名「香梅園」は、かつて神社に隣接してあった広大な「小村井梅園」を(小規模ながら)再興したものです。

▲境内にある解説板。こちらも、かつては墨東有数の梅名所でした。文章中央辺りの「築山」はどんなものだったのか。解説板の文章の左側に掲示された浮世絵を見てみましょう。

▲歌川(安藤)広重筆「小村井梅園」。「築山」が富士山形の小高い丘だったことが分かります。次の浮世絵は、その〝山頂〟からの様子です。

▲[出典]東京国立博物館蔵「亀戸小室井梅園」(歌川広重筆 1855年)
※小室井=小村井
階段状の通路で登れる頂上にも梅が植えられています。眼下の広大な梅園、そして川向うには遠く富士山も眺められて、とても立体的な構図です。

▲「香梅園」の梅は、かなり開花しているものもありました(撮影時期1月下旬)。

梅園は、1910年の洪水で残念ながら廃園となってしまいました。1994年に香取神社が氏子の協力支援のもと、境内に85種・120本の梅を植えて「香梅園」として再興。毎年「梅まつり」が2月中旬から開催されています。

なお墨田区内では、北部の名刹「多聞寺」(山門が墨田区内最古の現存建造物)の隣りにも「香取神社」があります。

永井荷風さんも〝一目置いた〟梅の花

まずは、今日さんぽした各スポットの位置関係をおさらいしておきましょう。

上の図は、【第35回】でもご案内した「大江戸今昔めぐり」アプリによるもの。古地図と現在の地図を重ね合わせるように対比できて、便利です。こうして見てみると、亀戸梅屋敷・小村井梅園ともに、とても広大だったことが改めて実感できますね。

梅は、桜とよく対比されます。もともと日本に自生していた桜に対して、梅は唐代の中国から伝わったといわれます。開花時期は梅が先。さっと咲いてさっと散るイメージの桜に対して、梅の〝花もち〟は長いです。色めを愛でる桜と、どちらかというと香りを楽しむ梅。ざっと、そんなところでしょうか。

永井荷風さんは、随筆『日本の庭』(1911年)で梅の花は美しく匂いもよくて、そのために中国や日本で古来文人たちから言及され尽くしていると指摘します。梅の花を見ると、東洋古典文学に対する自分の知識を試験されているようだとも述べています。

「漢詩と和歌と俳句とは全く余すところなく此の花の匂ひを吸ひ尽くしてしまつたのだ」「梅花、お前は他人に身を任せてしまつた恋人だ。老人(としより)の金持に身を任せてしまつた舞姫である」

この時32歳。愛着と一種の反感が共存する意識、そして後半のような例え方には、ちょっと苦笑いしてしまいます。荷風さんらしい〝屈折〟した意識でしょうか。

意外なところに「作っている」スポットが・・・

小村井の香取神社を出て、「曳舟たから通り」を東武・曳舟駅方面に進むと、すぐにこんな店舗(?)を発見しました。

▲「霧下そば本家」。ノボリを見てモダンな外観の「そば屋」だと勘違いしてしまいました。しかし、飲食店ではありません。

こちら、実はそば粉屋さん。1772年に新潟県妙高高原で創業され、東京に進出したのは1953年という老舗。当地で約60台の石臼を稼働させ、国内外各地から取り寄せた玄そばを卓越した技術で製粉して出荷しています。

▲会社事務所を兼ねた1階で、乾麺・冷凍生蕎麦・そば粉・そばつゆ等の自社製品を直売しています。壁面には、こちらを訪れた有名人たちのサイン色紙が飾られていました。

▲「霧下そば とわり」(600円)を購入。これまで不可能といわれた[そば粉100%〈十割〉の乾麺]が、特殊加工により粘着性を強化したそば粉をつなぎにブレンドして完成したそうです。会社ホームページ内の紹介が、なかなか興味深くて勉強になります。

[参考資料]
株式会社霧下そば本家ホームページ「霧下そば粉のできるまで」(サイト末尾「工場見学動画」で製造過程がビジュアルに学べます)
https://www.kirisita.com/process/

前回【第38回】の錦糸町エリアでの駄菓子製造に続いて、こちらのような意外感のあるポツンとした立地でも、「ものづくりのまち・すみだ」の存在感を知ることができました。

さんぽの仕上げは、〝最寄り駅〟の近くで

今日は、JR・亀戸駅から北上しながらあちこち訪れました。最後のスポットたちの最寄り、東武亀戸線・小村井駅の近くで晩酌していきましょう。

▲小村井駅改札口からもほど近く。「明治通り」に面した大衆店「居酒屋 仲よし」です。

▲年季を感じさせる店内。

出入口の横上に掲げられた額「一斗二升五合」。尺貫法単位の羅列ですが、[一斗⇒五升の倍⇒ご商売][二升⇒升升⇒ますます][五合⇒一升の半分⇒はんじょう⇒繁盛]。「一斗」の代わりに「春夏冬」が充てられることもあります。[秋がない⇒あきない⇒商い]です。

▲まずは、「生ビール・中」(650円)で今日のさんぽにお疲れさま! お通しに続いて、つまみに「アボカドまぐろ合え」(500円)を。洋風仕立てで舌になじむ食感です。

▲「ちくわ磯辺揚」(430円)は、ボリュームたっぷり。サクサクした衣にマヨネーズの相性がぴったりです。

▲次のお酒は、冷酒「高清水(秋田)」グラス(500円)にしました。こちらも〝盛りのよさ〟が感じられます。

▲仕上げの食事は「焼きそばめし」(650円)に。神戸市長田区発祥のソウルフードですが、東京下町で出会えるとは・・・。添えられたスプーンと小皿でおいしくいただきました。

そこそこ席数のある店内ですが、少人数で手際よく切り回す姿。〝都会のローカル線〟ともいわれる沿線で、また訪ねてみたいお店を発見した思いでした。

今日のさんぽ を振り返って

桜が「陽」で、梅は「陰」。「松・竹・梅」の(価格やグレードの)ランクで一番下。~そんなイメージもありますが、古くから墨東の地に梅の名所が多くて、人々からも人気があったことを実感できた。そんなさんぽでした。そういえば、向島エリアの一部がかつて「小梅村」だったことも思い出せました。

蛇足ですが、北海道帯広市のソウルフード・豚丼。その名店「ぱんちょう」では、価格順は「梅・竹・松」(梅の上位に「華」がありますが)です。そのワケは、初代の奥さまが「うめ」さんだったから。ちょっといい話で、「梅」ファンにもちょっぴり溜飲が下がるエピソードかもしれません。では、皆さんまたお会いしましょう・・・。

永井荷風のイラスト

お店情報

※営業時間・定休日は変更となる場合あり。来店前に電話等で確認してください。

かめぱん 立花店 東京都墨田区立花2-1-11 TEL:03-3619-2205 営業時間:(月曜~金曜)7:00~18:30 (土曜・日曜・祭日)7:30~18:00 定休日:火曜
霧下そば本家 東京都墨田区文花1-34-3 TEL:03-3617-4197 営業時間:8:30~17:00 定休日:土曜・日曜・祝日
居酒屋 仲よし 東京都墨田区文花3-23-10中西ビル1F TEL:03-3617-2474 営業時間:17:00~23:00 定休日:日曜

参考

筆者プロフィール

上野 慎一(うえの しんいち)
1957年生まれ。横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業。2015年にサラリーマンリタイア後、暮らしや経済に関するネット記事を執筆。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、お城巡りや居酒屋巡りなど全国あちこちの旅を楽しんでいます。

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