まずは「八広」で、江戸伝統工芸を
最初に訪れたのは、八広2丁目にある「江戸小紋博物館」(江戸小紋・江戸更紗博物館、大松染工場工房ショップ)。墨田区内に24ヶ所ある「すみだ小さな博物館」の1つです。
[参考資料]
墨田区ホームページ内「すみだ小さな博物館」
https://www.city.sumida.lg.jp/sisetu_info/siryou/small_museum.html
同上からさらに「江戸小紋博物館」
https://www.city.sumida.lg.jp/sangyo_jigyosya/sangyo/pr_brand_hyousyo/sumida3m/tiiki/hokubu/edokomonn.html
▲第三吾嬬小学校近くの路地に面した建物。大きな看板には葛飾北斎・富嶽三十六景「凱風快晴」、玄関上の大きなサインには江戸小紋(上)と江戸更紗(下)のデザインが。そして道路際には、すみだ「3M」のノボリも掲げられ、とても賑やかな外観です。
▲写真中央から右方向・黄色(1枚)と青色(7枚)のパネルで、小紋(東京染小紋)の歴史を学ぶことができます。写真中央やや上の各パネルでは、いろいろな型紙が展示されています。
▲染色に使用する道具も展示されています。その右側、上には2代目・中條隆一さんの精密な人形が、下には3代目・中條康隆さんが仕事する様子の写真が見えます。
▲上の2代目の人形の袴を拡大すると、「長」「寿」「福」の3文字がキメ細かく染められていることが分かります。遠目には無地に近いようで地味な色合い。実は、その中に繊細で洒脱なデザインが展開されている。江戸以来の小紋の伝統技の一端を実感できます
永井荷風さんの代表作小説『濹東綺譚』(1937年)。その冒頭エピソードに「小紋」が登場します。主人公は、荷風さん自身をモチーフにしたような初老独身の小説家。新吉原(色町)近くの古本屋に立ち寄った際、偶然来店した古着商から女物の衣類を買います。選択肢は、小紋か長襦袢(肌着)。書物の表装にでも再利用するつもりでした。
実際に買ったのは長襦袢。帰り道に警官に呼び止められて、言問橋近くの交番に連行されます。所持品検査と職務質問を受け、この品物で大いに怪しまれるはめに。小気味よいテンポで進むストーリーの中、地味目なイメージの小紋が、長襦袢の(ややエキセントリックな)存在感をより印象深くしていたように思えます。
おススメは、伝統工芸体験。干支アイテムもありました。
こちらの博物館、1階は資料展示のほかに展示販売コーナーや伝統工芸体験コーナーがあり、2階は作品展示・販売商談室となっています。
伝統工芸体験は、とても好評のようです。できるだけたくさんの方々に、江戸以来の技を実際に肌で感じ取っていただければ、とのことでした。
[参考資料]
大松染工場ホームページ内「染体験教室」
https://edokomon-daimatsu.com/?page_id=7
そして、こんな縁起物の干支ぬぐいも販売中。カラフルなラインアップの中から、エンジ色を購入(1,650円)しました。
▲浴衣生地(100×37cm)に「かさね染め」手法が施された一部を撮影。今年の干支(午=馬)の文字が逆さや反対向き「左馬」として配置。〝うま〟を逆さ読みした〝まう〟が、めでたい席で踊る「舞い」を連想させて縁起が良く、また、横に9文字ずつは「うまくいく」の願いだそうです。
2代目も3代目も、すみだマイスター認定に加えて国の「現代の名工」表彰もされ、さらに2代目は工芸関係の褒章も受賞されている重鎮です。江戸以来の伝統工芸がすみだにしっかりと根付いている。そのことを実感できた思いがしました。
すみだの「油田」でひと休み!
次のスポットに向かう前に、ひと休みしましょう。少し歩いて到着したのは、「油田カフェ」です。中居堀通りに面したマンションの1階部分にあります。
▲すみだに「油田」? そんな疑問がきっとわくでしょう。実はこの地下に油田があるわけではなくて、使い終わったてんぷら油など廃食油を再生して燃料としてリユースする。そんな仕組み「TOKYO油田2017」を運用する株式会社ユーズが営むカフェなのです。
▲店内の様子。奥のスペースには、入口のノレン左側にもあった「WEショップ」の名が。地域の人々から提供された雑貨や衣類を販売してリサイクルしながらその収益を助け合いなどに生かす活動。当地での販売は終わりましたが、統一感のない椅子やテーブルは、その名残りでしょうか。
▲淹れたてコーヒー(400円)とパイ(ラズベリージャムをトッピング、160円)をいただきました。当店の食品は、すべて国産(北海道産)小麦を使用しているそうです。
廃食油を再生して燃料としてリユースする。コミュニティバス、廃食油回収トラック、さらにイルミネーションなど街おこしイベントの発電源にも活用されています。
実は、テレビCMなどでも最近話題の航空燃料「SAF(サフ)」(=Sustainable Aviation Fuel)も、こうしたリユースシステムによるもの。資源のリユース・リサイクルによる循環型社会。この後に訪れるスポットも、江戸時代以来のこうした精神を進化させているのです・・・。
ここは、区内有数の発電所でもある(?)
「油田カフェ」から少し歩くと、次のスポット。東墨田1丁目にある「墨田清掃工場」に到着しました。
▲同工場パンフレット(東京二十三区清掃一部事務組合発行)から全景写真を引用しました。敷地面積約18,000㎡。巨大な煙突(高さ150m)とその左側(西側)に続くグレーの建物が工場。その左下側(南西側)に少し離れた半円形建物は、工場の焼却排熱を利用した「すみだスポーツ健康センター」です。
この連載【第32回】では「ガードパイプ」、【第34回】では下水道施設の「マンホール蓋」を取り上げました。どちらも、日常生活に密着した〝縁の下の力持ち〟のような存在でした。そして「生活ごみ処理」は、さらに日常生活に不可欠なインフラの1つといえるでしょう。
東京23区には、22の可燃ごみ清掃工場(うち2施設は建替中)があります。焼却して終わりではなく、最後は東京湾内の処分場に埋立てして処理終了です。焼却することで容積を約20分の1に減らし、また、焼却灰の一部をセメントや道路資材にリサイクルする。これが工場の使命なのです。
清掃工場によりますが、墨田清掃工場では、個人の見学は自由にできます(日曜を除く9時~15時30分〈最終入場15時〉、但し事前確認が望ましい)。では、ざっと見学をしてみましょう。
▲旧中川側の正門から見学者用の歩道が整備され、音楽にまつわるいろいろなオブジェが配置されています。こちらは、「太鼓」をモチーフにしたもの。工場棟の2階に上がると、見学ルートが展開されています。
▲ゴミ処理の歴史や現状などに関する説明パネルをひと通り見ると、いよいよ工場が実際に稼働している姿を眺められます。こちら「プラットホーム」にごみ収集車が次々と到着して、各車後部からごみを投下していきます。
▲投じられたごみは、写真左側のスロープから「ごみバンカ」に集まります。写真右側「ごみクレーン」でかき混ぜて均一化してから、クレーンで焼却炉の入口に投入します。
▲焼却後は、「灰バンカ」へ。もとのごみが焼却することで約20分の1に大きく減容化されていることが実感できます。
▲「中央制御室」で、各設備の操作や監視を24時間体制で行っています。制御の集中化と自動化により、少ない人数での運営が可能なようです。
▲排熱を利用した「蒸気タービン発電機」。1時間に最大13,000kW(一般家庭約3万世帯分)の発電ができます。作った電気の約30%は工場を動かすために使い、残り約70%は電力会社に売却。23区全体では、年間約94.7億円(2020年度実績)もの売電収入があるそうです。
江戸時代は、リサイクルやリユースが進んでいた「循環型社会」でした。修理や再生を専門に扱う業者も多数いて、生活資材はどれもとことん使いまわしたうえで、最後は燃料に。その灰も利活用されました。人や家畜の排泄物(糞尿)も肥料となっていました。
それでも発生するごみ。空き地や堀・川に捨てられることが社会問題となり、海の埋め立てで処分する流れに。明治期にはコレラなど伝染病の蔓延も踏まえて、[ごみ処理は行政の責務]・[ごみは焼却処分が望ましい]などが法律で定められました。
なお、荷風さんの父で中央官僚を務めた永井久一郎は、欧州に派遣された経験から下水道や塵芥処理の事情に精通。その見識を踏まえた論文発表や講演を通じて、上記の法律制定の流れに貢献して
います。
さんぽの仕上げは、八広に戻って
墨田清掃工場にもほど近い、八広3丁目のエリア。ちょっと〝意外感〟のあるお店で、さんぽの仕上げをしましょう。
▲中居堀通りと八広はなみずき通りをつなぐ細い横道沿いにあります。写真中央の目立たない入口左側の赤色の看板には、「CHINOIS シノワ 中国料理」と店名が書かれています。Chinoisはフランス語で「中国の」。町なかで見かける「中華料理」の店とは、かなり様子が違う印象です。
▲店内も、白色を基調にしたシックな雰囲気。フランス料理が出てきたとしても、何も違和感がない感じです。実はこちら、「銀座アスター」出身のご夫婦が営む“ヌーベルシノワーズスタイル”のお店。2010年1月に押上エリアから移転オープン。当地で丸16年のキャリアを重ねました。
▲まずは、ベルギーの白ビール「ヒューガルデン」(880円)で今日のさんぽにお疲れさま!
▲充実した点心類の中から、まずは「春巻」(550円)を。揚げたてのパリパリ・サクサク感を楽しめました。
▲続いて、「小籠包」(550円)。熱々のスープとともにほおばるのに、冷たいビールは必須です(笑)。
▲次のお酒は、「桂花陳酒・ソーダ割」(880円)にしました。
▲シメは、あんかけのカタ焼きそば「天然海老と旬野菜焼麺」(1,650円)を。野菜にこだわる当店らしさをじっくりと味わえました。添えられた酢をかけると〝味変〟も楽しめます。
地味で控えめ。そんな立地とたたずまいでしたが、「中華」とはかなりイメージが異なる。八広の地で、そんな粋な「中国」料理の一端に触れることができて、大満足でした。
今日のさんぽ を振り返って
江戸小紋の伝統工芸とごみ清掃工場。一見無関係そうですが、江戸時代以来のものを受け継いでいる点が共通していました。江戸小紋は、幕府の奢侈禁止令により布地の素材や染め色まで統制される世で、表立たない色目やデザイン・紋様の中に実は精巧な趣向を凝らして粋を追求。
そして、生活資材はどれもとことん使いまわすなど、現代以上にリサイクルやリユースが進んでいた「循環型社会」の江戸。結果的には、無秩序なごみの増大にも歯止めがかかっていたのでしょう。
目立つだけが能ではない。控えめさの中にキラリとするものは、かっこいい。後始末のことをいつも考えながら消費活動をする。今日のさんぽで立ち寄ったところから、さまざまなことを学んだような思いがしました。では、皆さんまたお会いしましょう・・・。