かつてあった「お化け煙突」とは?
まずは、区外ですが隅田川沿いの大学キャンパスに来ました。JRほか・北千住駅から徒歩20分ほど。そこには、巨大な輪っかのモニュメントが展示されています。これは、一体何なのでしょうか。
▲帝京科学大学千住キャンパスの一角に設置。輪っかの上部と下部に、雰囲気の違いが感じられますね。写真右端のポール(工事用養生シートに隠れているものを含めて4本)は、かつてのそれぞれの位置関係を表した縮小オブジェです。
▲空き地を確保しやすいことと、燃料の石炭を船で運ぶのに便利だったから。~隅田川沿いに火力発電所が建設されたのは、こうした理由があったようです。こちらは、見る場所を変えると4本の煙突が1本・2本・3本と見え方が違った。そんなことのようです。
長く地元の名物だったことから、足立区のホームページには煙突の見え方の違いが当時の写真で掲示されています。
[参考資料]
足立区ホームページ「お化け煙突をご存知ですか?」
https://www.city.adachi.tokyo.jp/hakubutsukan/chiikibunka/hakubutsukan/shiryo-obakentotsu.html
永井荷風さんも、代表作日記文学『断腸亭日乗』(1940年11月26日)で言及しています。~「・・・発電所ありて大なる烟(煙)突四本高く雲表に聳(そび)えたり。(中略)遠くより之を見る時場処(所)と時間とによりて二本にも見え三本にも見ゆることあり。近きところに来らざれば四本には見えず。それ故お化煙突と云ふ由なり」。
荷風さん、三河島に住む芸人から聞いた話だと記述しています。その時点では、現物を見ていたわけではなかったようです。
現場の鉄骨枠の中で浮遊する(?!)
北千住駅から押上駅へ移動。駅から少し歩いた住宅エリアの一角に「現場喫茶」がありました。
▲写真左端は営業時間や定休日を示した予定表。しかしこうした看板、普通は工事現場に掲示されるものです。どうして店名が「現場」なの?
その疑問は、店内に入ると分かります。実はこのお店、防水工事や塗装工事などを扱う会社がショールームを兼ねて営業しているのです。
▲店内は、壁面に工具類やヘルメットほか建築関連アイテムが並び、棚や照明も工事現場の仮設用を転用するなど、〝工事現場〟らしいモチーフを随所に取り入れています。
▲カフェラテ・ホット(715円)には、ガトーショコラが少々添えられて。ラテアートにも「本日の現場」の文字が見えます。さらに、金属食器の持ち手の先端にもご注目! スプーンはスパナの形、フォークはシャベル持ち手の形と〝工事感〟が満載なのです。
そして、店内の奥には「トリックアート」のような仕掛けまで用意されていました。
▲実際にはない鉄骨の枠が、まるであるかのように見えます。枠内に人物が入ると、さらに〝トリック度〟が高まります。
視覚の錯覚(錯視)が起きるように、わざと仕掛けをした作品。それを見るなど体験して楽しんでもらう。そんな「TrickArt(トリックアート)」、実は登録商標で、「トリックアート美術館」も全国に18ヶ所展開されているようです。
先ほどの「お化け煙突」は、施設を建てた側には「錯覚」を引き起こす意図はないでしょう。見る側がどの場所・どんな角度から見るかによって、煙突の本数が変わる(ように見える)。そんなものでした。
一方、このお店の鉄骨枠状の仕掛けは、見る人に「錯覚」を引き起こそうという意図(遊び心)が、設置する側に明確にある。こうした違いが分かりました。
ちなみに、「トリックアート」の発想のもとになるような「錯視」について、キヤノン株式会社のサイトが詳しい解説で興味深いです。ご関心があれば、見てみてください。
[参考資料]
キヤノン株式会社「キヤノンサイエンスラボ・キッズ」~「光の“正体”は? 目の錯覚(さっかく)のいろいろ」
https://global.canon/ja/technology/kids/mystery/m_04_18.html
両国にある「トリックアート」の大作
両国駅方面に向かう道すがら、「大横川親水公園」の一角で、東京スカイツリーのこんな姿が眺められました。
▲東京スカイツリーの「天望デッキ」よりも下の部分が木々で隠されて、公園内の時計ポールとまるで一体化。こんなデザインの時計台なのかのようにも見えます。
施設を建てた側に「錯覚」を引き起こす意図はないですが、角度や方向で面白く見える。そんな一例でしょう。
そして、両国駅周辺に到着。JR・両国駅東口を出て東側に進むと、総武線の高架土手の擁壁部分にこんなペイントアートを発見しました。
▲平らな断面の擁壁なのに、窓枠が立体感を演出。先ほどの「現場喫茶」の鉄骨枠と同じですね。風船も本当に浮遊しているかのようです。
▲少し色あせてはいますが、こちらの木々や鳩にも立体感があります。
▲両国らしい、お相撲さんの後ろ姿。まるでそこに腰かけているような気がしませんか。このペイントアート、清澄通り沿いのJRガード下まで長々と続きます。
実はこれらは、「TrickArt(トリックアート)」の登録商標権を持つ株式会社エス・デーが、1991年に制作した「かんばすていしょん」という作品(横長に続くトリックアート壁画群)。「カンバス」+「ステイション」なのでしょう。
さんぽの最後に、「とんかつ」を!
JR・両国駅東口と国道14号線の間にあるのが、飲食店中心の商店街・横綱横丁。以前にも訪れましたが、その一角で早めの晩酌をしましょう。
▲とんかつ「はせ川」。「ミシュランガイド東京」のビブグルマンや「食べログ」の百名店の各「とんかつ」ジャンルで何度も選ばれている名店です。
▲竹がアクセントとなっているシックな店内。昼営業時間(15時まで)の終わり際なので空いていましたが、時間帯によっては行列待ちになることもあるようです。
▲まずは、「ゆずサワー」(650円)で喉をうるおしました。
▲つまみは、おススメメニューの1つ「三元豚の肉味噌きゅうり」(700円)を。「平牧バーク三元豚」は、当店のとんかつに使われている自慢の品種。肉味噌もほど良い濃厚さで、きゅうりとの相性がぴったりでした。
▲名物のとんかつは、「ロースかつ(120g)」(平日ランチメニュー・1,600円)にしました。実際にはこのほかに、ご飯・みそ汁・小鉢・香の物が付きます。カラッと揚がったかつは、さっばりとした脂肪と柔らかい肉質が印象的で、評判通りのおいしさ!
平日・早めの時間帯に始めたおかげで、名店の味を比較的手ごろに味わえてラッキーでした。
今日のさんぽ を振り返って
たまたまそう見えるのか。あるいは、わざと(錯覚させて)そのように見せようとしているのか。駆け足でしたが、さんぽしながら両方の実例に触れることができました。
ところで、多くの女性遍歴があった永井荷風さん。その中で関根歌との交際も有名で、2人のことを記述するくだりでよく登場するのが、こちらの写真です。
▲一例として、『荷風と歩く東京いまむかし』(前之園明良著、実業之日本社刊)の158ページを引用。仲睦まじいツーショットのように見受けられます。
実は上記の写真、実物の左端に写る人物が切り外されたもの。実物全体は、こちらです。
▲『荷風全集・第十六巻』(岩波書店刊)冒頭掲載箇所から引用。左端の神代種亮(こうじろたねすけ)は、「校正の神様」と呼ばれた校正編集者で、荷風さんとも懇意にしていました。
銀座で歌と一緒に夕食した後、たまたま出会って、神代の知人の写真館で撮影した。この日(1932年7月11日)の先出『断腸亭日乗』にも、はっきりと記録されています。
神代・永井の間で背景の色みが変わっていることもあり、〝切り取り〟しやすいのかもしれませんね。しかし、3人一緒とツーショットでは、写真を見たときの印象がかなり違ってくる。そんな気がしませんでしょうか。
錯覚(させられている)ではなく、部分的な〝切り取り〟や〝誇張〟が施された情報を見聞きしている。世の中には、こうしたものも少なくありません。「トリックアート」のような善意ある〝遊び心〟とは違って、要注意な場合もあります。では、皆さんまたお会いしましょう・・・。